ここではベンツの222179型・Sクラス セダン [S65 AMG Long W222|2014/06モデル] に搭載されているM279型のツインターボエンジンのデータを参考に、このエンジンが持つ特性や素性について調べてみます。
M279型のツインターボエンジン諸元
![]() 222179型 Sクラス セダン 主要諸元と走行性能まとめ | |
車両型式 | CBA-222179C型 |
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車名&グレード | Sクラス セダン S65 AMG Long W222 |
エンジン型式 | M279 |
種類 | V型12気筒 |
排気量 | 5980cc |
内径×行程 | 82.6mm×93.0mm |
ボアストローク比 | 1.13 |
単気筒容積 | 498.3cc |
圧縮比 | 9.0 |
吸気方式 | ツインターボ |
使用燃料 | ハイオクガソリン |
最高出力 | 630PS/4800-5400rpm |
最大トルク | 102.0kgm/2300-4300rpm |
まず基本的な成り立ちとして、M279型エンジンはボア(内径)82.6mm、ストローク(行程)93.0mm、ボアストローク比1.13のロングストローク型エンジン(ピストン径よりもストローク量のほうが大きい)です。
排気量と気筒数が同一の場合、ショートストローク型に比べて低回転域でのトルク特性に優れ、扱い易いエンジンとされますが、高回転域では充填効率の悪化や摺動抵抗が増大して出力の低下が懸念されます。
なおかつ回転数も同一の場合、ショートストローク型に比べて平均ピストンスピードが高くなりがちなことから、エンジンへの負荷が大きくなる傾向にあります。
このサイトにて登録されている車種のうち、M279型のツインターボエンジンを搭載する最も古い車種は、1994/12から発売された2代目Gクラス [W463型|2012/08]、最も新しい車種は2013/10から発売された6代目Sクラス カブリオレ [217379C型|2016/07]となっており、NA車は0車種、ターボ/SC車は5車種の全5車種が登録されています。
過渡特性とリッター換算馬力から見た評価
エンジン性能曲線のイメージ | |
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馬力の変遷 | 327.5PS → 630PS |
トルクの変遷 | 102.0kgm → 83.6kgm |
リッター馬力 | 105.35PS/L |
リッタートルク | 17.1kgm/L |
今回の参考車両であるSクラス セダンのV型12気筒5980cc、圧縮比9.0でハイオクガソリン仕様のツインターボエンジンは、4800-5400回転のとき最高出力630馬力を、4800-5400回転のとき最大トルク102.0kgmを発生させます。
馬力と回転数が分かればトルクが、トルクと回転数が分かれば馬力を知ることができますので計算してみますと、最大トルクが発生する2300回転での馬力は327.5PS、最高出力が発生する5400回転でのトルクは83.6kgmになります。
排気量1リットルあたりの馬力は105.35PS/L、トルクは17.1kgm/Lとなり、1気筒(単気筒容積498.3cc)あたりの馬力は52.5PS、トルクは8.5kgmです。
M279型ツインターボエンジンを、このサイトで登録している全てのターボ車から集計した偏差値ベースの10段階評価に当てはめると、評価は換算馬力が[ 6 ]、換算トルクが[ 7 ]の「標準的な出力(中の上)のエンジン」にカテゴライズされます。
ちなみに、M279型のターボ・SCエンジン搭載車種のうち、最高出力が最も大きかったのは222179C型Sクラス セダンの630PS/102.0kgm、最も小さかったのはW463型Gクラスの612PS/102.0kgmとなっています。
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【5W-30】
排気量アップと圧縮比の上昇、ボアストローク比の変化
ノーマルの排気量と圧縮比 | ||||
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Bore | Stroke | 排気量 | 圧縮比 | B/S比 |
82.6 | 93.0 | 5980cc | 9.0 | 1.13 |
ボアアップによる排気量拡大 | ||||
83.1 | 93.0 | 6053cc | 9.1 | 1.12 |
83.6 | 6126cc | 9.2 | 1.11 | |
84.1 | 6199cc | 9.3 | 1.11 | |
84.6 | 6273cc | 9.4 | 1.10 | |
85.1 | 6347cc | 9.5 | 1.09 | |
85.6 | 6422cc | 9.6 | 1.09 | |
ストロークアップによる排気量拡大 | ||||
82.6 | 94.0 | 6044cc | 9.1 | 1.14 |
95.0 | 6109cc | 9.2 | 1.15 | |
96.0 | 6173cc | 9.3 | 1.16 | |
97.0 | 6237cc | 9.3 | 1.17 | |
98.0 | 6302cc | 9.4 | 1.19 |
エンジンの排気量を決める要素には気筒数、ボア径、ストローク量の3つがあり、これらを増減することでさまざまな排気量のエンジンが生まれます。
ここでは実際に可能かどうかは別として、ピストン径を純正の82.6mmから0.5mm刻みで85.6mmまで拡大した場合および、ストロークを純正の93.0mmから1mm刻みで98.0mmまで延長した場合の排気量と、燃焼室容積が変化しないと仮定した場合の圧縮比の変化を一覧表にしています。
※ストロークアップと口で言うのは簡単なのですが、ロングストローク化するにあたってはクランクシャフトおよび対応コンロッドが必要になり、純正流用できない場合はワンオフで作らなければならないなど、とにかくお高く付きますので、手を出すには相当の覚悟を求められるメニューです。
圧縮比については、実際のところピストンが大径化するに伴ってピストン天面の凸凹容量も変化する場合が大半ですから、一覧表にある圧縮比の数値の通りにはなりませんが、排気量を大きくすると自ずと圧縮比も上昇しますよ、という雰囲気をご堪能ください。
B/S比はボアストローク比の略で、ボア径を広げていくとロングストローク型からスクエア型、あるいはショートストローク型の特性へと近付いていきます。M279型エンジンの場合、純正ピストンから+3.0mmのボアアップをすると比は1.13から1.09に変化するという具合です。
ピストン径が近いエンジンと排気量アップ
M279型エンジンのピストン径82.6mmとサイズが近いピストンを持つエンジンが8件ありますので、余興としてピストン流用でボアアップした場合の排気量を計算してみます。
Eg型式 | ピストン径 | 排気量 |
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マツダ PE型 | 83.5mm [+0.9mm] | 6111cc [+131cc] |
日産 M9R型 | 84.0mm [+1.4mm] | 6184cc [+204cc] |
日産 CD20型 | 84.5mm [+1.9mm] | 6258cc [+278cc] |
三菱 4G63型 | 85.0mm [+2.4mm] | 6333cc [+353cc] |
日産 VQ25型 | 85.0mm [+2.4mm] | 6333cc [+353cc] |
日産 RD28型 | 85.0mm [+2.4mm] | 6333cc [+353cc] |
ピストン径が近いエンジンとしては、マツダ:DMEP型CX-30に搭載されるPE型1997ccの83.5mm、日産:DNT31型エクストレイルに搭載されるM9R型1995ccの84.0mm、日産:SW11型ラルゴに搭載されるCD20型1973ccの84.5mm、三菱:CT9A型ランサーエボリューションに搭載される4G63型1997ccの85.0mm、日産:NM35型ステージアに搭載されるVQ25型2495ccの85.0mm、日産:WYY61型サファリに搭載されるRD28型2825ccの85.0mmなどが該当します。
(もはやこのような探求に楽しみを見い出す人は減ってしまいましたが)いくら径が近かろうとも、ピストンピンの径やピストンの高さ、バルブリセスの都合などなどありますので、なるべくなら同じメーカー、なるべくなら同じ燃料で同じ吸気方式、なるべくなら排気量が近いものを選ぶと純正流用できる可能性が高くなる、かもしれません。
●ピストン径が小さい 5000cc超のエンジン
●ピストン径が大きい 5000cc超のエンジン
●ストロークが短い 5000cc超のエンジン
●ストロークが長い 5000cc超のエンジン
●ボアストローク比・昇順 [5000cc超]
●ボアストローク比・降順 [5000cc超]
平均ピストンスピード
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続きまして平均ピストンスピードについて見てみます。ストロークが93.0mmのエンジンが最高出力を発生する5400回転での平均ピストンスピードは16.7m/sとなり、これは1秒間に16.7メートル(時速にすると60.1km/h)の距離を進む速さでピストンが上下運動していますよ、という意味です。
最大トルクを発生する2300回転では7.1m/s、最高出力が発生する5400回転より500回転高い5900回転をレブリミットと仮定したときの平均速度は18.3m/sとなっています。
参考までにストロークが93.0mmのM279型エンジンを10000回転/毎分まで回したときのピストンスピードの変化を計算してみました。これを見ると回転数が2000回転高くなるごとに概ね6.20m/sずつ速度が増していくようです。
大量生産を前提とした一般的なエンジンの目安である20.0m/sのみを基準として考えると、高回転化の上限を(回るか回らないかは別として)6450回転くらいにするのが機械的にも精神的にも好ましそうです。
M279型エンジンを搭載する車種の例
全5車種を最高出力が大きいものから順に表示しています。
メーカー 車両型式 | 画像 | 車名&グレード | 出力/燃費 パワーウェイト | 排気量 変速機 | ||||||||||||||||||
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ベンツ 222179 | ![]() | 2014/06 Sクラス セダン S65 AMG Long W222 [CBA-222179C] | 630PS 102.0kgm 8.1km/L 3.630kg/PS | ターボ FR/7AT セダン 5人乗り | ||||||||||||||||||
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ベンツ 231474 | ![]() | 2013/08 SLクラス SL65 AMG R231 [231474] | 630PS 102.0kgm - 3.000kg/PS | ターボ FR/7AT オープンカー 2人乗り | ||||||||||||||||||
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ベンツ 217379 | ![]() | 2016/07 Sクラス カブリオレ AMG S65 Cabriolet R217 [217379C] | 630PS 102.0kgm - 3.510kg/PS | ターボ FR/7AT オープンカー 4人乗り | ||||||||||||||||||
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ベンツ 217379 | ![]() | 2014/10 Sクラス クーペ S65 AMG C217 [CBA-217379C] | 629PS 102.0kgm 7.9km/L 3.450kg/PS | ターボ FR/7AT クーペ 4人乗り | ||||||||||||||||||
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ベンツ W463 | ![]() | 2012/08 Gクラス G65 AMG W463 [W463] | 612PS 102.0kgm - 4.232kg/PS | ターボ 4WD/7AT SUV 5人乗り | ||||||||||||||||||
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