ここではベンツの222057型・Sクラス セダン [S400 Hybrid W222|2014/06モデル] に搭載されているM276型の自然吸気エンジンのデータを参考に、このエンジンが持つ特性や素性について調べてみます。
M276型の自然吸気エンジン諸元
222057型 Sクラス セダン 主要諸元と走行性能まとめ | |
車両型式 | DAA-222057型 |
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車名&グレード | Sクラス セダン S400 Hybrid W222 |
エンジン型式 | M276 |
種類 | V6+モーター |
排気量 | 3497cc |
内径×行程 | 92.9mm×86.0mm |
ボアストローク比 | 0.93 |
単気筒容積 | 582.9cc |
圧縮比 | 12.0 |
吸気方式 | 自然吸気 |
使用燃料 | ハイオクガソリン |
最高出力 | 306PS/6500rpm |
最大トルク | 37.7kgm/3500-5250rpm |
まず基本的な成り立ちとして、M276型エンジンはボア(内径)92.9mm、ストローク(行程)86.0mm、ボアストローク比0.93のショートストローク型エンジン(ストローク量よりもピストン径のほうが大きい)です。
排気量と気筒数が同一の場合、ロングストローク型に比べて低回転域でのトルク特性に劣り、扱いにくいエンジンとされるものの、高回転域では充填効率の向上や摺動抵抗の増大も(ロングストローク型に比べれば)軽微なことから出力の向上が見込まれます。
また同じ回転数でも平均ピストンスピードが抑えられることから、その分だけエンジンへの負荷は低減される傾向にあります。
このサイトにて登録されている車種のうち、M276型の自然吸気エンジンを搭載する最も古い車種は、2011/07から発売された3代目SLKクラス [172457型|2011/07]、最も新しい車種は2013/10から発売された6代目Sクラス セダン [222057型|2014/06]となっており、16車種のNA車が登録されています。
関連ページ
メルセデスベンツ:M276型 ターボ/SCエンジン 諸元と性能まとめ
過渡特性とリッター換算馬力から見た評価
エンジン性能曲線のイメージ | |
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馬力の変遷 | 184.2PS → 306PS |
トルクの変遷 | 37.7kgm → 33.7kgm |
リッター馬力 | 87.50PS/L |
リッタートルク | 10.8kgm/L |
今回の参考車両であるSクラス セダンのV6+モーター3497cc、圧縮比12.0でハイオクガソリン仕様の自然吸気エンジンは、6500回転のとき最高出力306馬力を、6500回転のとき最大トルク37.7kgmを発生させます。
馬力と回転数が分かればトルクが、トルクと回転数が分かれば馬力を知ることができますので計算してみますと、最大トルクが発生する3500回転での馬力は184.2PS、最高出力が発生する6500回転でのトルクは33.7kgmになります。
排気量1リットルあたりの馬力は87.50PS/L、トルクは10.8kgm/Lとなり、1気筒(単気筒容積582.9cc)あたりの馬力は51.0PS、トルクは6.3kgmです。
M276型自然吸気エンジンを、このサイトで登録している全てのNA車から集計した偏差値ベースの10段階評価に当てはめると、評価は換算馬力が[ 8 ]、換算トルクが[ 9 ]の「結構な高出力エンジン」にカテゴライズされます。
ちなみに、M276型の自然吸気エンジン搭載車種のうち、最高出力が最も大きかったのは222057型Sクラス セダンの306PS/37.7kgm、最も小さかったのは212255C型Eクラス ステーションワゴンの252PS/34.7kgmとなっています。
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排気量アップと圧縮比の上昇、ボアストローク比の変化
ノーマルの排気量と圧縮比 | ||||
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Bore | Stroke | 排気量 | 圧縮比 | B/S比 |
92.9 | 86.0 | 3497cc | 12.0 | 0.93 |
ボアアップによる排気量拡大 | ||||
93.4 | 86.0 | 3535cc | 12.1 | 0.92 |
93.9 | 3573cc | 12.2 | 0.92 | |
94.4 | 3611cc | 12.4 | 0.91 | |
94.9 | 3650cc | 12.5 | 0.91 | |
95.4 | 3688cc | 12.6 | 0.90 | |
95.9 | 3727cc | 12.7 | 0.90 | |
ストロークアップによる排気量拡大 | ||||
92.9 | 87.0 | 3538cc | 12.1 | 0.94 |
88.0 | 3579cc | 12.2 | 0.95 | |
89.0 | 3620cc | 12.4 | 0.96 | |
90.0 | 3660cc | 12.5 | 0.97 | |
91.0 | 3701cc | 12.6 | 0.98 |
エンジンの排気量を決める要素には気筒数、ボア径、ストローク量の3つがあり、これらを増減することでさまざまな排気量のエンジンが生まれます。
ここでは実際に可能かどうかは別として、ピストン径を純正の92.9mmから0.5mm刻みで95.9mmまで拡大した場合および、ストロークを純正の86.0mmから1mm刻みで91.0mmまで延長した場合の排気量と、燃焼室容積が変化しないと仮定した場合の圧縮比の変化を一覧表にしています。
※ストロークアップと口で言うのは簡単なのですが、ロングストローク化するにあたってはクランクシャフトおよび対応コンロッドが必要になり、純正流用できない場合はワンオフで作らなければならないなど、とにかくお高く付きますので、手を出すには相当の覚悟を求められるメニューです。
圧縮比については、実際のところピストンが大径化するに伴ってピストン天面の凸凹容量も変化する場合が大半ですから、一覧表にある圧縮比の数値の通りにはなりませんが、排気量を大きくすると自ずと圧縮比も上昇しますよ、という雰囲気をご堪能ください。
B/S比はボアストローク比の略で、ボア径を広げていくと0.93からさらに値は小さくなり、ショートストローク型の恩恵と弊害が顕著になっていきます。M276型エンジンの場合、純正ピストンから+3.0mmのボアアップをすると比は0.93から0.90に変化するという具合です。
ピストン径が近いエンジンと排気量アップ
M276型エンジンのピストン径92.9mmとサイズが近いピストンを持つエンジンが20件ありますので、余興としてピストン流用でボアアップした場合の排気量を計算してみます。
Eg型式 | ピストン径 | 排気量 |
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トヨタ 5VZ型 | 93.5mm [+0.6mm] | 3543cc [+46cc] |
レクサス 2GR型 | 94.0mm [+1.1mm] | 3581cc [+84cc] |
レクサス 2UR型 | 94.0mm [+1.1mm] | 3581cc [+84cc] |
レクサス 1UR型 | 94.0mm [+1.1mm] | 3581cc [+84cc] |
トヨタ FA24型 | 94.0mm [+1.1mm] | 3581cc [+84cc] |
レクサス 8GR型 | 94.0mm [+1.1mm] | 3581cc [+84cc] |
ピストン径が近いエンジンとしては、トヨタ:VZN215W型ハイラックス サーフに搭載される5VZ型3378ccの93.5mm、レクサス:GSU30W型マークX GRMNに搭載される2GR型3456ccの94.0mm、レクサス:UWG60型センチュリーに搭載される2UR型4968ccの94.0mm、レクサス:USF40型ランドクルーザー200に搭載される1UR型4608ccの94.0mm、トヨタ:VBH型WRX S4に搭載されるFA24型2387ccの94.0mm、レクサス:GVF50型クラウンに搭載される8GR型3456ccの94.0mmなどが該当します。
(もはやこのような探求に楽しみを見い出す人は減ってしまいましたが)いくら径が近かろうとも、ピストンピンの径やピストンの高さ、バルブリセスの都合などなどありますので、なるべくなら同じメーカー、なるべくなら同じ燃料で同じ吸気方式、なるべくなら排気量が近いものを選ぶと純正流用できる可能性が高くなる、かもしれません。
●ピストン径が小さい 3500ccクラスのエンジン
●ピストン径が大きい 3500ccクラスのエンジン
●ストロークが短い 3500ccクラスのエンジン
●ストロークが長い 3500ccクラスのエンジン
●ボアストローク比・昇順 [3500ccクラス]
●ボアストローク比・降順 [3500ccクラス]
平均ピストンスピード
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続きまして平均ピストンスピードについて見てみます。ストロークが86.0mmのエンジンが最高出力を発生する6500回転での平均ピストンスピードは18.6m/sとなり、これは1秒間に18.6メートル(時速にすると67.0km/h)の距離を進む速さでピストンが上下運動していますよ、という意味です。
最大トルクを発生する3500回転では10.0m/s、最高出力が発生する6500回転より500回転高い7000回転をレブリミットと仮定したときの平均速度は20.1m/sとなっています。
参考までにストロークが86.0mmのM276型エンジンを10000回転/毎分まで回したときのピストンスピードの変化を計算してみました。これを見ると回転数が2000回転高くなるごとに概ね5.75m/sずつ速度が増していくようです。
大量生産を前提とした一般的なエンジンの目安である20.0m/sのみを基準として考えると、高回転化の上限を(回るか回らないかは別として)6980回転くらいにするのが機械的にも精神的にも好ましそうです。
M276型NAエンジンを搭載する車種の例
全16車種のうち、最高出力が大きいものから順に上位3車種を表示しています。その他の車種については、ページ下部にあるリンクよりM276型エンジン搭載車種の一覧をご覧ください。
メーカー 車両型式 | 画像 | 車名&グレード | 出力/燃費 パワーウェイト | 排気量 変速機 | ||||||||||||||||
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ベンツ 222057 | 2014/06 Sクラス セダン S400 Hybrid W222 [DAA-222057] | 306PS 37.7kgm 15.4km/L 6.569kg/PS | 自然吸気 FR/7AT セダン 5人乗り | |||||||||||||||||
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ベンツ 218359 | 2011/10 CLSクラス セダン CLS350 Blue-Efficiency C218 [RBA-218359C] | 306PS 37.7kgm 12.0km/L 5.719kg/PS | 自然吸気 FR/7AT セダン 4人乗り | |||||||||||||||||
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ベンツ 221057 | 2011/11 Sクラス セダン S350 Blue-Efficiency W221 [RBA-221057] | 306PS 37.7kgm 12.4km/L 6.209kg/PS | 自然吸気 FR/7AT セダン 5人乗り | |||||||||||||||||
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M276型エンジン搭載車種の一覧 パワーウェイトレシオ順|全25車種 |